DTAL(旧RCEAL)留学記録

2010年1月から2014年半ばまで在学していたケンブリッジ大学理論・応用言語学科でPhDを取得するまでの記録です。

Learner Corpus Research 2013

ノルウェーはベルゲンの郊外で開催された標題の学会に出席しました。学会期間中のつぶやきはこちらにまとめました。


私はCL、EUROSLAに続き、博士論文の一部を発表しました。今回発表する箇所はどうやっても統計手法(変量効果を示す表の読み方)をオーディエンスに理解してもらわないと、こちらが何をやっているかさっぱり伝わらないであろう箇所で、そこが伝わるかどうかが肝でした。しかし初日の発表を聞きながら、どうも準備をしたスライド+説明では伝わらないのではないかという気がし、初日の夜にスライドに割と大きな変更を加えました。それが功を奏してか、発表後のオーディエンスの反応を見るに、覚悟していたよりはポジティブに捉えてもらえたように思います。2008-2009年に修士論文に基づく発表を各所で行った際に、オーディエンスに馴染みのない分析手法を使っているため伝わらない、という苦い経験を何度もしたのですが、大体何をどれくらい説明すれば伝わるかが少しはわかってきたのかなと思います。これは博論の中の伝わらない箇所を指摘し続けてくれた現指導教官のお陰です。


さて、このLCR 2013、これまで参加した学会の中では素晴らしい会場でした。会場は大学ではなくベルゲン郊外にある海辺のリゾートホテルで、部屋によっては山と海を眺めながら発表を聞くことができました(これ自体は良し悪しですが)。また食事もLCR 2011に引き続き大変美味しく、最後の方は帰りたくないと思っていました。行く前は空港からベルゲン市内とは逆方向の、周りに何もなさそうなところに行くのは嫌だと思っていましたが、今では今後も年に一度くらいはそこで私の研究分野関連の学会を開催して欲しいと思っています。しかしその代償に、物価の高い北欧であることを考えても参加費は高く、学会参加費+2泊3日(訂正:3泊4日)の宿泊費で4500ノルウェークローネ(8万円前後)だったので、現実的には実際にそこで学会が開催されたとしてもそう簡単に参加できたいのですが。


今回も、外大・ケンブリッジ大学・English Profileの関係者を中心に様々な方とお会いできて良かったです。Learner Corpus Associationという団体が設立され、二年後も本学会が開催されるようですので、可能であれば参加したいです。

就職活動

バーミンガム大学で職を得ましたが、就職活動に際しては、それ以外にも色々と検討したり、実際に応募したりしました。今回は私が求人情報を得ていたウェブサイトをいくつか紹介します。基本的には英国でポスドクレベルの職を探す時に役立つサイトです。

jobs.ac.uk
jobs.ac.ukは英国内の研究職の求人情報のポータルサイトです。日本でいうJREC-INのような位置付けでしょうか。「TESOL」のように分野を指定すると、定期的にそれに該当する求人情報をメールで受け取ることができます。
ESRC
日本学術振興会に相当する団体は英国ではResearch Councils UK (RCUK)ですが、RCUKは研究分野により細分化されており*1、人文学をカバーするのがArts & Humanities Research Council (AHRC)、社会科学をカバーするのがEconomic and Social Research Council (ESRC)などとなっています。日本の日本学術振興会特別研究員(学振)のように各RCにもfellowships(プロジェクトに付くのではなく、応募者各々の研究を支援してもらえるタイプの職)があり、例えばESRCでは近年ではFuture Research Leadersというスキームでポスドクを募集しています。
Junior Reserch Fellow (JRF)
ケンブリッジ大学とオックスフォード大学では多くのCollegeがfellowship制度を設けています。例えばケンブリッジ大学ではReporterという雑誌のCollege Notices → Vacanciesでその情報を知ることができます(昨年だと例えばここここ)。しかし各College、全分野で一人しか取らないため競争率は非常に高く、採用率は1%を下回ることがほとんどです。
各種メーリングリスト
より分野に特有の求人情報は専門のメーリングリストで得ることができます。私はLINGUIST ListCorpora-ListLTEST-LBAALMailを主にチェックしていました。現在の職を見つけたのはCorpora-Listです。
海外学振
国外でポスドクを得るなら海外学振を取るという方法もあります。日本語での情報が豊富なので検索してみてください。


学振同様、ポスドクなど若手研究者の育成を目的としているもの(JRFなど)は、博士号取得後(あるいは博士課程開始後)の経過年数に制限があることが多くあります。JRFに関しては、人文系よりも理系の方がその制限が緩く(長く経過していても良い)、日本の学振とは逆になっています。


ポスドクは仕事なので、EU外の国籍の人がポストを得るためにはビザを取得する必要があります。その辺りに関して、UKBA(UK Border Agency)は留学生の間で悪名高く、毎年のようにビザ取得の条件などが変わります。私はPoints-based制でTier 2ビザを取得しました。諸事情あり急いでいたためプレミアムサービスという制度を用いて即日発行してもらいましたが、ロンドンやバーミンガムなど近くのオフィスのスロットは全て埋まっていたため、リバプールまで行かねばならず、しかも£900以上支払ってのビザ取得となりました(郵便で申請すると£500弱)。思わぬ出費です。

*1:RCUKのウェブサイトを見ると、厳密には7つのRCが提携して組織しているのがRCUKのようです

バーミンガムでの生活

EUROSLAからケンブリッジに戻って二日後にバーミンガムに引っ越し、一週間が経ちました。


引っ越し
今回はanyvan.comという入札サイトで引越し業者を探しました。その名の通り、man with a van(車+人:日本で言う赤帽のような業者)の業者、が、指定した条件(いつ、どこからどこまでどれくらいの荷物を届けるか)の元、いくらでその引越しを請けるか提示します。その中からその仕事をポストした出札者(私)が業者を選ぶと、彼等が仕事をその値段で行ってくれます。ケンブリッジからバーミンガムまで20箱弱で、£120程度でした。


住居
大学から徒歩二分、大学内の私のオフィスから徒歩10分の所にあるstudio flatに住んでいます。studioとはトイレ・バス・キッチンが各部屋についている物件のことです。こちらでアパートを借りる場合、大きく分けて以下のようなランクがあります。

  1. トイレ・バス・キッチンが共用の物件
  2. トイレとバスは個別にありキッチンのみが共用の物件(en-suiteと呼びます)
  3. トイレ・バス・キッチン全て個別にある物件(studioと呼びます)
  4. キッチンなどがある部屋と寝室が分かれている物件(寝室の数に応じて◯ bedroom(s)と呼びます)

ケンブリッジでは毎夏引っ越し、計4箇所に住みましたが、最初と二番目が2(en-suite)、三番目と最後は1でした。バーミンガムケンブリッジと比較すると家賃が安いこと、フルタイムで働くので奨学金生活と比べれば多少は余裕があることを考え、今回は3-4を中心に物件を探し、利便性や清潔感から現在の部屋に決めました。


仕事・大学
先の記事に記したように、私はプロジェクト付きのリサーチフェローになります。しかしプロジェクトメンバーがまだ全員揃っていないこともあり、まだ本格的に仕事が始まってはいません。一部データを入手し、それに慣れようとしているくらいです。談話分析はこれまで行ったことがないので、研究の幅を広げるという意味でプロジェクトが本格的に動き出すのを楽しみにしています。


私のオフィス。三人のポスドクで共用です。


大学のシンボルである時計塔



バーミンガム大学は街の中心部から電車で二駅(6-7分)離れたところにありますが、街も十分に近いので、今のところ買い物などに頻繁に出かけています。バーミンガムは英国第二の都市と言われており、街全体で100万人弱が居住しています。ケンブリッジ(12万人)と比較すると大きいですが、ロンドン(800万人)と比べると相当小さく、また住宅地が中心部から離れた所に多くあるため、街の中心部は良く言えばコンパクトにまとまっています。




EUROSLA2013

オランダはアムステルダム大学で開催された標題の学会に参加しました。EUROSLAは2010年から連続で参加しており、今回で四度目になります。学会に関するつぶやきをこちらにまとめました。


EUROSLAでは毎年、本学会の前日にLanguage Learning Round Tableというイベントがあり、そこでは著名な研究者がラウンドテーブル形式でディスカッション・議論を行うのですが、今年のテーマは「Acquisition orders in SLA: Perspectives from emergentism and dynamic systems theory」。先月末に提出した私の博士論文がちょうどDSTに絡めて形態素の習得順序を扱っており、指導教官の薦めに従って、パネリストの方々に事前に博士論文をお送りしていました。するとラウンドテーブルのベースとなる発表二件の両方で私の博論を引用してくださり、内一件(Lowie & Verspoor)ではそれなり(おそらく5分以上)の時間をかけて私の研究をご紹介くださりました。そうやって自分の研究を宣伝してもらえるのも嬉しいですし、パネリストの方々と知り合えたのも良かったですし、さらに私の発表のオーディエンスが非常に多かったのも、おそらく私が本学会で発表する旨をVerspoor先生がラウンドテーブルで述べてくださったからでしょう。


私の発表に関しては、博士論文の一部を特にSLA的な側面を強調しながら発表したつもりだったのですが、質疑応答は手法面に集中してしまいました。EUROSLAなのでSLA的なコメントがもらえるかと期待していたのですが。しかし個人的には(上述したような後押しがあったこともあり)割とうまく発表できたように思うので、満足しています。


来年は英国のヨーク大学で9月3-6日に開催されますバーミンガム大学でのプロジェクトがSLAとは関係がないので、ネタを作れるかどうか心許ないのですが、近場(片道二時間強)ですし、できるだけ参加したいと思います。

バーミンガム大学のResearch Fellowになりました

本日(2013年8月30日)より二年間、バーミンガム大学のResearch Fellowという職に就くことになりました。「Investigating interdisciplinary research discourse: the case of Global Environmental Change」というESRC(日本で言う科研)のプロジェクト付きの職となります。


プロジェクトはコーパスに基づくもので、バーミンガム大学Centre for Corpus ResearchのDirectorをされているPaul Thompson氏がPI(Principal Investigator:代表者)、Susan Hunston氏がco-investigator(共同研究者)、ほかにポスドクレベルの研究者が私ともう一人おり、基本的にはその四人で研究を進めることになると理解しています。上記のプロジェクトのページをお読み頂ければわかるように、学際的研究のディスコースの特徴や、それが分野の成熟に伴いどのような変遷を遂げるかを明らかにすることを目指すプロジェクトで、Douglas Biber氏が開発した多次元分析(Multidimensional Analysis)をその研究手法の中心に据えています。私のプロジェクト内での役割は多次元分析を中心としたデータ処理、統計分析で、修士論文で多次元分析を行った経験がある点を特に買われて採用されたのではないかと思っています。


博士課程で行っていた第二言語習得関係の研究から離れてしまうのは寂しいですが、今年の抱負には「次のステージがどこのどういうポジションであれ、そこに順応し、そこにいる最大限のメリットを享受するにはどうすれば良いかを考え行動する」と書きました。ランカスター大学と並びコーパス言語学のメッカであるバーミンガム大学で、そこの強みである(コーパスに基づく)ディスコースの研究ができるのは環境的には申し分ないので、それを精一杯活かして、多くのことを学びたいと思います。

宣伝

『英語学習者コーパス活用ハンドブック』という書籍が刊行されるのですが、その一節を書かせて頂きました。

英語学習者コーパス活用ハンドブック

英語学習者コーパス活用ハンドブック


また先日の夏コミで販売された『Semiannual Journal of Languages and Linguistics』に、私へのインタビューを含む@nanaya_sacさんの記事が掲載されています。オックスブリッジのカレッジ制度などについて語っています。現在、@nanaya_sacさんより通信販売にて入手可能です。こちらをご覧ください。


博士論文を提出し、最近はのんびりと過ごしています。例年と比べて今年は8月が寒いのが残念ですが、それでも過ごしやすい気候ですし、残り少ない夏を楽しもうと思います。

博士論文提出!

本日、博士論文を提出しました。最後はもたつきましたが、取りあえず出せて一安心しました。viva(口頭試問)は10月になる予定です。


昨夜に提出分(二部)を印刷し、他の提出物も確認し、あとは論文を綴じて提出するだけ、という状態でしたが、そこから更に一山ありました。ケンブリッジ大学生は通常、Graduate Union(GU)というところで論文を綴じてもらうのですが、今朝意気揚々と向かってみると、「夏季休業」の張り紙。以前からGUの営業日は確認しており、ウェブサイトでは「火・木・週末・バンクホリデー・クリスマスと年末年始は休み。それに加えて7月19日(金)と8月23日(金)も休み」と書いてあったので、今日(7月29日の月曜日)は営業しているだろうと思っていたのですが、夏も一週間休業するようです。提出する気満々でGUに向かったので、一週間も待てません。まずはGUが提携しているJ.S. Wilson & Sonという会社に電話をしてみたのですが、ウェブサイト上の情報通り、論文綴じは3日間かかるとの回答でした(GUでは2-10分/部)。半ば絶望しながらも、絶対に今日出すと決めていたので、諦め切れません。そこで、ロンドンまで行けばすぐに綴じてくれる所があるのではないかと考え、インターネットで検索してみたところ、Collis Bird & Witheyという会社を見つけました。場所もKing's Crossから二駅と悪くありません。早速電話でウェブサイトに書いてあるように2時間で綴じてくれる旨を確認し、更にStudent Registryケンブリッジ大学の学位論文を提出する部署)にも電話し、17時までに提出すれば受け取ってもらえる旨を確認し、11時45分の電車でロンドンに向かいました。こんな時に限って電車が遅延したのですが、1時間ほどでKing's Crossに到着、13時過ぎにその会社に付き、14時45分に綴じてもらった論文をピックアップし、15時15分の電車でケンブリッジに向かいました。とにかく遅延だけは避けてくれと願った甲斐があってか、16時過ぎにケンブリッジ到着。タクシーに飛び乗り、ロンドンで気づいたミスを修正した提出に必要な書類をCollegeで印刷してから、Student Registryに向かい、無事に16時40分に提出できました。


最後の最後までドタバタしましたが、取りあえず一段落しました。これまで陰に陽に私を支えてくださった皆様、本当にありがとうございました。まだ口頭試問があるので気が抜けませんが、しばらくはゆったりめの生活が送れそうです。


そういえば、祝杯は日本では常に飲んでいたもののこちらでは飲む機会がない梅酒で、と前から決めていて、ケンブリッジで唯一梅酒を扱っているSeoul Plazaというところに買いに行ったのですが、こちらも改装工事らしく今日から休みでした。今朝開いていることを確認したので、ロンドンのJapan Centreの前を通ったにもかかわらず買ってこなかったのですが・・。ケンブリッジは完全に観光シーズンで、学生が街にいないため、色々な所がこうやって閉まっているようです。