DTAL(旧RCEAL)留学記録

2010年1月から2014年半ばまで在学していたケンブリッジ大学理論・応用言語学科でPhDを取得するまでの記録です。

Eurosla 2010

只今、12泊13日の学会ツアーの真っ只中です。1日から4日まで標題の学会に出席していました。開催地はイタリアで、ボローニャから電車で40分のところにあるReggio Emiliaという小さな街です。


Euroslaは多少分野は違うもののアメリカのAAALに匹敵するほど巨大な学会かと思っていたのですが、蓋を開けてみると参加者は(目算)300人弱程度と、全国英語教育学会はおろか関甲信にも及ばない規模でした。ただ日本人参加者は多く、計20人ほどいたのではないでしょうか。例年は日本人参加者は5人にも満たないらしいのですが、今年は何があったのでしょうか。


ところでEuroslaは学会名から察するにSLAの学会だと強く信じ込んでいたのですが、@molly_hoshiさんから伺い学会HPで確認したところ、Euroslaの「sla」はSecond Language "Association"だそうです。ならば習得以外の研究でも構わないのかと思いきや、CFPには「Proposals for papers, posters, and thematic colloquia are invited on all areas of second language acquisition research」とあり、やはり発表類は習得に限られるようです。しかし実際には第二言語/外国語教育を強く意識しその分野への示唆を含む発表が多く、もっと理論的な発表(例えば生成文法の枠組みでのL2習得やSCTの視点からL2習得過程のある現象を解釈するなど)が中心であると予想していたので意外でした。


印象に残っているのはラウンドテーブルの以下のやりとり。

  • Roy Lyster「noticingは習得のごく一部にしかすぎず、そこにあまりこだわりすぎるのは良くない。recastなど、corrective feedbackの種類とその影響の研究などが重要」
  • Alison Mackey「noticingは習得にとって非常に重要な意味を持っている。recast研究はもう古いのではないか」

この一見相反するnoticingに対する見解は、Lysterが教育的な立場から上記を主張しており、Mackeyは純粋に習得の視点から主張しているという差異によって説明できます。つまりLysterはnoticingしたとしてもそれで習得が完成するわけではなく、その後にDeKeyserの言うようなpracticeが必要、という立場で、Mackeyはまだその辺りは教育への示唆を出す段階ではないが、noticingは習得の重要な過程である、という主張のようです。recastについてももっと見解の相違を刷り合わせて欲しかったのですが、上記以降は触れられることはありませんでした。


個別の研究発表では以下の二つが印象的でした。内容は簡略化し、私の興味のある部分のみを記しています。


Elena Mizrahi & Batia Laufer

  • 研究設問
    • 英語学習者のコロケーション知識がnative-likeになることはあるのか
  • 手法
    • 被験者:自己申告で自身が母語話者レベルであると応答した学生を、NationのVocabulary Size Testの産出技能版(自作)を使い、native-like NNS、advnced user of L2の二グループに分ける。対照群としてNS一グループ。native-like NNSは平均英語学習期間が28年+5年の英語圏在住経験
    • 材料:BNCや米語コーパスの頻度に基づく自作のコロケーションテスト。連語の最初の語を埋める形式。
  • 結果
    • native-like NNSもNSグループよりも有意に点数が低い。
  • 考察
    • コロケーションは産出語彙知識よりもnative-likeになりづらい。学習者の最終到達地点がnative-likeなのかどうかも不明。
  • コメント
    • 発音と並んでnative-likeになることが難しいと言われるコロケーションですが、それが実証された形になりました。ただnative-likeな点数を得たNNSもいたようなので、NNSはどこまで頑張ってもnear-nativeが限度で、native-likeにはなれない、と結論付けるのはまだ早そうです。



Marianne Gullberg, Leah Roberts, & Christine Dimroth

  • 研究設問
    • 成人は未学習の言語を7分間聞くだけで、語認識できるのか
    • 成人は子供よりも上記に優れているのか
  • 手法
    • 被験者:21人の大人と14人の子供。オランダ人。
    • 材料:7分間の中国語。その中の24語が対象。頻度、視覚強調、音節数の三つが変数。
    • テスト:この語は以前に聞いたことがありますか?という問
  • 結果
    • 三つの変数は全てテストの結果に有意に影響を与える
    • 成人が子供よりも本タスクに優れているということはない
    • 年齢×頻度の相互作用がある。つまり子供の方が頻度に敏感。
  • コメント
    • 子供の方が頻度に敏感なのは面白い。言語習得に統計的・確率的学習が必要だとすると、L1獲得が短期で完成する理由の一旦ではなかろうか。



来年のEuroslaはストックホルムで開催されるようです。北欧にも一度は行ってみたいので、良い機会かもしれません。Michael Longが基調講演で来るようですし、行ければ行ってみようと思います。その数日後にGranger氏主催の学習者コーパスのシンポジウム(?)もベルギーで開催されるので、その二つのイベントをはしごするつもりで算段を立てようと思います。