DTAL(旧RCEAL)留学記録

2010年1月から2014年半ばまで在学していたケンブリッジ大学理論・応用言語学科でPhDを取得するまでの記録です。

International Society for the Study of Argumentation (ISSA)

@susydozymercyさんがご紹介くださった表題の学会に出席してきました。Tokyo Conference on ArgumentationAltaと並んで三大議論学会議の一つだそうで、四年に一度、ワールドカップの年にアムステルダムで開催されているとのことです。因みにTCAも四年に一度、こちらはオリンピックの年に東京で開催されていて、Altaはその合間である奇数年に米国ユタ州で開催されているようです。それにより一年に一度は議論学の国際会議がどこかであるということになっているようです。


ISSAはその中でも規模が大きく、10部屋パラレルの発表が三日間続き、計300発表が行われます。それでも今年は450発表申し込みがあった内の150は落としているようなので、アーギュメンテーションへの関心の高さが伺えます。色々と著名な方がいらっしゃっていたようですが、私がギリギリ理解できたのはディベートの仮説検証パラダイムを提唱されたZarefsky先生くらいでした。


さて私は学部時代からディベートに関わっているものの、学術分野としてのアーギュメンテーションは全くの専門外です。「Argumentation in Debate」というセッションはWSDCの話などで理解できましたし、そのほかにも2009年5月の鳩山-岡田討論の分析など、コンテクストが日本であれば理解できる部分もありましたが、大多数の発表はやはりよくわかりませんでした。最も流行しているアーギュメンテーションのパラダイム(?)はpragma-dialecticsというものらしく、研究発表や基調講演で幾度となくそのフレーズを聞きましたが、それが何を指すのかすらわからずに行く場所ではなかったのかもしれません。またこちらも(拝聴した部屋のセッション柄)何度か出てきたウィトゲンシュタインも読んだことがなく、専門知識なし、教養なしでは理解できるはずがありませんでした。


ただそれでも本学会に出席して本当に良かったです。これは分野によりませんが、学会に参加することにより知り合いが増えたり、これまであまりお話できなかった方々と話す機会が得られたりします。今回も例外ではなく、そのため出席して良かったと思っています。今後も最初に挙げたような学会に参加できればと思うのですが、そのためには学問としてのアーギュメンテーションも少しは理解したいので、夏にアーギュメンテーションについて読んでみようと思います。


発表は実証研究が少なく、あってもケーススタディーが主流で、質的な談話分析のような研究が多いという印象を受けました。中には「Argumentation and Linguistics」というセッションでコーパスを用いた研究もありましたが、それでも手法は定性的で、コーパスの大規模性を活かして云々、といったものは私が見た限りではありませんでした。具体的な発表例は私が理解できた範囲で、以下のようなものがありました。

  • ナラティブと統計データでは後者の方が説得的であるというメタ分析があるが、決してナラティブに説得力がないというわけではない。ナラティブの強みはvividnessであり、聞き手の感情を巻き込み、それにより具体的なイメージを与えることができる。その結果、ナラティブの影響はより長期的であると言われている。
  • 鳩山-岡田の討論はキャンペーンイベントである。議論のクラッシュはなく、両者で一つのスタンスを示している。ただ(国民への?)教育的な意味合いはあるだろう。また両者の違いは鳩山がナラティブで比較的強い言葉を用いていたのに対し、岡田は弁証法的で曖昧な表現が多かった。



ところで本学会ではパワーポイントを用いた発表は半分未満しかなく、また多くの発表者はただひたすら原稿を読み上げるというスタイルでした。これは来年発刊される予稿集が実質は論文集であり、それに向けての論文を仕上げてから本学会が開催されるためでしょうか。つまり自身の発表内容をまとめた論文が先に出来上がるため、それをPPTに起こすのが面倒で(あるいはその時間がなく)その論文を読み上げてしまうというのがその理由かと思います。あまり良い慣習だとは思えませんが。


少し前から考えているのですが、「アーギュメント」「アーギュメンテーション」の適訳がなかなかありません。東京の学会名は「議論学」となっているものの、議論というと複数人が必要なイメージがあります。一方で英語のargumentationはODEによると"the action or process of reasoning systematically in support of an idea, action, or theory"と、大まかに言うと「主張の理由付け」を指し、それが表出する形態は問われません。アーギュメンテーションを促進して行く上で、長ったらしいカタカナ語よりは引き締まる感じの漢語があった方が良いと思うのですが、何かありませんでしょうか。


本学会の参加費は225ユーロとなかなか高額でしたが、三日間の昼食とreception、最終日のクルーズ代と晩餐会(banquet)費が含まれていることを考えるとこんなものでしょうか。@susydozymercyさんに久々の日本食をご馳走になったこともあり、滞在期間中は学会参加費と宿泊費以外の費用はほとんどかかりませんでした。


以下、アムステルダム滞在中に撮った写真です。後ほどfacebookに更にアップする予定です。


ドーバー海峡は貨物列車の巨大コンテナのようなものの中にバスごと入って渡ります。所要時間35分。




コンテナ内部の様子



アムステルダム市内の交通の要であるトラム(路面電車)です



トラムの駅



道路にはトラムの線路がぎっしり



アムステルダム大学のメインの学会会場です



アーギュメンテーション界で著名な研究者の写真が飾ってあります



各部屋にも写真が。こちらはよく聞くToulminモデルで有名なToulmin先生。



学会最終日にはこんな船に乗ってクルーズしました



ワールドカップでオランダがブラジルを下し喜ぶ人々



晩餐会



「coffeeshop」。カフェかと思いきや、一語で書くと・・・