DTAL(旧RCEAL)留学記録

2010年1月から2014年半ばまで在学していたケンブリッジ大学理論・応用言語学科でPhDを取得するまでの記録です。

新年度授業

二つ前のエントリーで「Language Acquisition and Development」の内容は紹介しましたので、今回はそれ以外の授業の内容を簡単に記したいと思います。後半二つはMPhil向けに開講されている授業です。


Language Learning and Cognition Reading Group
昨年度も出席した読書会形式の授業です。毎週課題論文を読んできて授業時間内ではそれを基にディスカッションを行ないます。内容は認知面からの言語習得・・・ということになっていますが、トピックが暗示的学習やその脳科学的背景であることが多いため、du-ti-ze-・・タイプの暗示的学習研究に典型的なsyllable習得?であることも多いです。


今年は今のところ

  1. Amato, M. S., & MacDonald, M. C. (2010). Sentence processing in an artificial language: Learning and using combinatorial constraints. Cognition, 116(1), 143-148. doi: 10.1016/j.cognition.2010.04.001
  2. Perruchet, P. (2005). Statistical approaches to language acquisition and the self-organizing consciousness: A reversal of perspective. Psychological Research, 69(5/6), 316-329. doi: 10.1007/s00426-004-0205-6
  3. Fletcher, P. C., Zafiris, O., Frith, C. D., Honey, R. A. E., Corlett, P. R., Zilles, K., & Fink, G. R. (2005). On the Benefits of not Trying: Brain Activity and Connectivity Reflecting the Interactions of Explicit and Implicit Sequence Learning. Cerebral Cortex, 15(7), 1002-1015. doi: 10.1093/cercor/bhh201

の順に三本読んでいますが、出典が心理系/脳科学系だからかデザインが綿密で文章の密度も高く、毎回それなりの苦労をしています。いずれもざっと読める感じの論文ではなく、精読で4-6時間くらいを費やし、それでもよくわからないので部分的に読みなおす、ということを毎週繰り返しています。論文自体は私の興味と一致していて面白いのがせめてもの救いです。


Computational Corpus Linguistics
始まる前は大分楽しみにしていたのですが、期待値が高すぎたのか蓋を開けてみるとあまり面白くない部類の授業になっています。その理由は授業がコーパス初心者向けであることと、基本的にMcEnery and Wilson (2001)に基づいた授業であるためです。McEnery and Wilson (2001)はMcEnery, Xiao, and Tono (2006)と大幅に内容が重なっている上に前者の方が容易だそうで、後者を頻繁に読んでい(てその著者の授業を受けてい)た身としては、またそこから?というのが正直な感想です。去年はそれなりに難解なことを扱っていたようなので、より残念です。


Assessment of Language Proficiency
逆にあまり期待していたなかったのに意外と面白いと感じているのがこの授業です。講師は二人いらっしゃり、共にCambridge ESOLのリサーチチームの方です。基本的にはレクチャー形式+一部タスク、というような感じですが、テスティングの基本的な部分を60分×8週間でカバーするため相当のスピードで進んでいきます。その分情報密度も高く、日本で得た基本的な知識があっても毎週新情報がそれなりに入ってきます。ケーススタディーも時々あり、それに関するディスカッションではクラスも盛り上がります。


English Syntax
日本ではほとんど理論言語学を学んだことがなかったのですが、ここにきて統語論の授業に出席することになりました。思い返せば学部の頃に統語論は少し学んだ気もしますが、全く真剣ではありませんでしたし(言語学副専攻の履修証明を取りたいがためだけに履修したため)、ほとんど記憶にもありません。しかし言語習得・言語教育の教科書や論文等を読んでいると徐々にそういう知識も付いてくるようで、本授業も既知情報と新情報が半々程度です。特に統語論に強い興味があるわけではないのですが、応用言語学者(あるいは広い意味での言語学者)を名乗(りたいと思ってい)る以上、理論言語学の一通りの知識は欲しいとも思います。


習得(社会面)、習得(認知面)、コーパス、テスティングと今期だけ見れば日本にいた時と変わらぬレパートリーです。計5つの授業を履修し、課外活動もあり、研究面でもそろそろどこかで発表をという話もでてきて、更に講習会・講演会の類もあり、これまでと比較してなかなか慌ただしい毎日ですが、同時に充実しているとも感じます。これで博論のグランドデザインが決まり、博論を作業レベルにまで落としこむことが出来れば言うことなしなのですが・・・。