DTAL(旧RCEAL)留学記録

2010年1月から2014年半ばまで在学していたケンブリッジ大学理論・応用言語学科でPhDを取得するまでの記録です。

EMLAR 2011

Empirical Methods in Language Acquisition Research(EMLAR)というオランダのユトレヒトでのイベントに出席してきました。参加者は計60-70名ほどで、言語系のワークショップらしく8-9割が女性でした。知り合いはいないだろうと思っていたのですが、会場でケンブリッジの他のPhD学生×4人とばったり。彼らと私は全然別のルートで情報を仕入れ、個別に来ているわけですが、もうちょっと研究科で情報共有のシステムがあっても良いのではないかと思います。ほかの学生がどういう学会に行ったり発表したりしているのか全くわからないので・・・。


さて今年のEMLARは10の講演(実際は1つキャンセルがあったので9)と3つのスキルチュートリアルから成っていましたが、講演は音声学・音韻論系のものが多く、あまり興味が持てないものが大半でした。期待していたHulstijnの「Measuring language proficiency」という講演も、テスティングの基礎のような内容で、それほど面白くはありませんでした。


チュートリアルは以下から一つずつ、計3箇所を選び出席するというもの。定員があるので、典型的な言語習得研究を志す人と少し違う趣向を持っていると便利です。(1)語彙データベース、CHILDES、視線追尾、Formal and computational methods、(2)SPSS、R、CHILDES、視線追尾、(3)SPSS、マルチレベルモデル、視線追尾、PRAAT。CHILDESとSPSSは両方とも同じ内容ですが、視線追尾は三スロットすべて違う内容です。私はcomputational methods→SPSS→マルチレベルモデルに出ました。


computational methodsは言語習得のコンピューターモデルを実際に作ってみるという内容で、アイデアは好きなのですが、如何せんプログラミング経験のない人が集まるので、2時間の枠で習得モデルの概念の説明から始まり、実際にPythonでコーディングする、というのは厳しいと思います。実装し(ようとして時間が足らなかっ)たのも簡単な推移確率を用いて音節から語の区切りを推測するというモデルですし、Pythonの復習になったくらいで個人的にはそれほど目新しいことはありませんでした。


同時開講されていたRよりもSPSSを選んだのは、Rはintroと書いてあり、SPSSは大規模データを扱う際のテクニック、とちょっと面白そうなことがabstractに書いてあったからです。しかし蓋を開けてみるとExcelからSPSSにデータをインポートするだけで1時間近くを使うという「advanced(講師の方の言葉)」からはかけ離れた内容でした。データのmerge方法など新しいこともありましたが、おそらくその程度であれば紹介されていた方法を用いなくても、何なりと代替方法があるはずです。ということでこちらも期待を随分と下回る内容でした。


唯一の当たりはマルチレベルモデル。Baayen本やHox本などを通して何となくの理解であったマルチレベルモデルが、具体例を実際にSPSSで(これがRで、なら更に良かったのですが)処理することにより、飛躍的に理解が深まった気がします。またグループレベルのサンプルサイズが50を下回るとbiasが入るので良くない、という話を読んだことがあったので(例えばこれ)、ではグループレベルでのサンプルサイズが10の時はマルチレベルモデルではなく単純にANOVAやANCOVAを用いる方が良いのかと個人的に講師の方に尋ねたところ、マルチレベルモデルを用いる弊害はないので、そのような場合でもマルチレベルモデルの方が良いとのこと。だとするとANOVAの使用機会が激減すると思うのですが。ただこの辺りは参考文献が欲しいところです。


総じて、チュートリアルの題目群から期待していたほどの面白さは感じられないワークショップでした。チュートリアルのトピックはこれ以上は望めないほど魅力的なものが並んでいるだけに残念です。コンピューターモデルにしろSPSSにしろRにしろ、もう少し上のレベルを扱うか、そうでなければ初級編、上級編のようにレベル分けをして異なる講座にすれば良いのではないかと思います。


ところで開催地であったユトレヒトはオランダ第四の都市で、ミッフィーの故郷としても有名のようです。あまりに寒くてほとんど観光はしていませんが、唯一行ったのがディック・ブルーナ・ハウスというところ。ミッフィーの作者であるディック・ブルーナさんに関する博物館です。以下はそこでの写真から。


こんな建物。



黄金のミッフィーです。50周年の時に贈られたそうです。



誇らしげです



各国語でのミッフィーなどの絵本が



壁一面にあります



日本人観光客が多いのか、日本語字幕付きの紹介ビデオがありました。左がディック・ブルーナ、右ができたばかりの原稿をチェックしている奥さんだそうです。



ディック・ブルーナ作の日本の切手です