DTAL(旧RCEAL)留学記録

2010年1月から2014年半ばまで在学していたケンブリッジ大学理論・応用言語学科でPhDを取得するまでの記録です。

Language Acquisition and Language Processing Research Cluster Workshop

北太平洋沖大地震で被災された方々に心よりお見舞いを申し上げます。こちらでも会う人会う人が日本のことを心配してくださり、日本と何の関係もないのに私と同等かそれ以上に最新の情報を仕入れている人もいます。こちらにいては節電すら協力できずもどかしいですが、「Japan Earthquake Relief Fund」というところを通してささやかながら募金はさせて頂きました。余震や原発はまだ予断を許さない状況で不安で不便な生活を送られている方々も多くいらっしゃると思います。一刻も早く平時の生活に戻ることができるようお祈り申し上げます。


さて、今秋からRCEALは言語学研究科と統合し、Department of Theoretical and Applied Linguisticsという名称になります(ブログのタイトルどうしよう・・・)。その一環で、これまで言語学研究科のみのイベントであったものがRCEALも巻き込んだイベントになる、ということがあります。その内の一つがResearch Clusterというもので、PhDの学生は全員Historical Linguistics、Phonetics/Phonology、Syntax、Semantics/Pragmatics、Language Acquisition and Language Processingのいずれかのクラスターに所属し、年に二回ゲストスピーカーを呼びその内の一回では自身も発表するというイベントを開催しなくてはなりません。


私はLanguage Acquisition and Language Processingのクラスターに所属しているのですが、第一回のイベント(ワークショップ)が今週ありました。第二回は毎年行なっているEssex大学との合同発表会(5月)に兼ねるということで、今回のみで予算(£400)を使い切っても構わないことに。ゲストは一人がたまたまイギリスにいらっしゃった(というかいらっしゃるためこの日に設定した)Nick Ellis、もう一人がバーミンガムで意味処理の研究をされているSteven Frissonという方。ゲスト二人が同日にケンブリッジには来られないとのことで、半日×二日間になりました。


私は初日のNick Ellisの回に発表しました。内容は先月のEnglish Profile Research Seminarとほぼ同内容です。Nick Ellisの最近の研究がlearned attentionにより文法形態素習得におけるL1の影響を説明するというもので、正に私の研究内容ど真ん中であったため、楽しみにしていました。結果的に良い研究であると言って頂けたほか有益なコメントも幾つか頂け、今後の研究の方向性が定まったように思います。当日のNick Ellisの基調講演は概ね最近LLSSLAに載った論文の内容でした。L2習得で単純な統計的学習だけでは説明がつかない部分の話で、L1という経験があるためにL2習得が難しくなっていることがわかりやすく示されています。


翌日もTuesday ColloquiaでNick Ellisの講演。こちらが本丸のようで、Nick Ellisがここ10年ほど主張し続けている統計的学習の話の中で、特にverb argument construction内でもジップの法則が成り立つことを中心に据えた話。2009年にModern Language Journalに掲載された論文でも同様の主張をしていますが、そこから更に進展していて、現在はBNCなどを用いて相当数のconstructionについてその検証を行っているとのこと。結果が楽しみです。RASPでのparsingやWordNetを用いたword sense disambiguationなどコーパス技術も積極的に用いているようなので、LCRでの基調講演はこの内容ではないかと思います。


その翌日はSteven Frissonを招いてのワークショップ。PhDの学生の発表は、推移確率や文脈が推論に及ぼす影響についてのものが多かったです。Frissonが2002年に発表した研究が、推移確率だけではなく文脈も理解に影響を及ぼすことを主張したもので、それを下敷きにした研究ということになります。その中で一人だけ、癌関連の研究論文の要旨から情報構造(「手法」「結果」「考察」など)を自動抽出する、という旨の研究を発表していた学生がいましたが、勇気あるなあと思います。応用言語学全般を扱うRCEALの全てのPhD学生がいずれかのクラスターに所属しなければならない、となるとこういうこともあるのでしょう。Frissonの基調講演はリーディング時の意味理解について。多義語の語義選択には頻度の効果がないというのは怪しいながらも面白いと思いました。


今回のイベントは言語習得・言語処理の心理系アプローチが中心で楽しむことができました。その反動で5月のイベントは生成文法のアプローチが中心になりそうですが。