DTAL(旧RCEAL)留学記録

2010年1月から2014年半ばまで在学していたケンブリッジ大学理論・応用言語学科でPhDを取得するまでの記録です。

英語教育、この一冊

本記事は、anfieldroadさん企画の「『英語教育ブログ』みんなで書けば怖くない!」の第四回に応えるものです。今回のテーマは「英語教育、この一冊」。ほかの方のエントリーはこちらから読むことができます。


私の選ぶ「この一冊」は白井恭弘著『外国語学習の科学 − 第二言語習得論とは何か』。


外国語学習の科学―第二言語習得論とは何か (岩波新書)

外国語学習の科学―第二言語習得論とは何か (岩波新書)


読んだのが4年ほど前なので記憶が怪しく、また特に本記事を書くに当たり再読等した訳ではないことをご了承ください。理由は以下の三点です。


1. 原理・原則を述べていること。そして同時に歯切れが良いこと。
ハウツーではなく考え方が具体的な事例や研究を通して描かれていて、且つ断言調である点が気に入りました。これは難しいと思うのです。通常は勉強すればするほどその分野について物が言えなくなるわけで、学術論文を書くのであればそれでも良いのですが、一般書だとともすれば著者の意図が伝わりづらい書き方になってしまいかねません。本書は学術的な内容を専門家が扱うように扱いながらも、割とはっきりとした物言いであったように思います。


2. 新書であるため、SLAを学んだことがなくても読めること(少なくともその意図のもと執筆されていること)
原理・原則を述べているSLA書は沢山ありますが、その多くが洋書で、和書のものはあっても専門家でなければ読めないものがほとんどです。一般的な英語教育関係者(非研究者・非院生)あるいは一般的な学習者がとっつきやすいものというと、白井先生の一連の著作くらいしか思いつきません。しかし英語教育・学習にSLAを役立てるというのであれば、その部分こそが必要であり、その意味で本書は貴重であると思います。(同著者の『英語教師のための第二言語習得論入門』は本書よりも直接的に英語教員を対象としており、こちらも良書なのかもしれません。まだほとんど読めていないので本記事では取り上げられませんでしたが)


3. しかし内容は高度であること
一般向けの書籍ですが、決してレベルの低いことが書いてあるわけではありません。L1転移、臨界期仮説、個人差、明示的・暗示的知識など、SLA研究で現在もホットだと思われるトピックを多くカバーしており、決して無難なこと・当然のことを列挙しているだけではありません。高度なトピックの中心部に触れつつ易しく説明できるのは、さすが著者であると感じました。